landrunner’s blog

しばらく開発から離れてた人間が、技術的キャッチアップを図るための勉強ブログ

「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」を読んだ

概要

Amazonの公式サイトより引用。

みずほフィナンシャルグループ(FG)が2011年から進めてきた「勘定系システム」の刷新・統合プロジェクトが2019年7月、ついに完了した。

富士通日立製作所日本IBMNTTデータを筆頭に1000社ものシステムインテグレーターが参加したものの、2度にわたって開発完了が延期になったことから、なかなか完成しないスペイン・バルセロナの教会にちなんで「IT業界のサグラダファミリア」とまで呼ばれた史上最大級のITプロジェクトだ。

みずほFGは完了までに8年もの年月と、35万人月、4000億円台半ばをつぎ込んだ。

1980年代に稼働した「第3次オンラインシステム」の全面刷新は、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が統合したみずほFGにとって、2000年の発足以来の悲願だった。

しかしシステム刷新は何度も挫折し、2002年と2011年には大規模なシステム障害を引き起こした。80年代の非効率的な事務フローが残ったままになるなど、勘定系システムの老朽化は経営の足かせになっていた。

なぜみずほ銀行のシステム刷新は、これほどまでに長引いたのか。そして今回はどうやって完了に導いたのか。

メガバンクの勘定系システムとして初となるSOA(サービス指向アーキテクチャー)全面導入」 「AS IS(現状通り)を禁止した要件定義」「1000社のシステムインテグレーターを巻き込んだプロジェクト管理」など、新勘定系システム「MINORI」開発の全貌と、みずほ銀行がこれから目指す金融デジタル化戦略を、みずほFGにおける19年の苦闘の歴史を追いかけ続けた情報システム専門誌「日経コンピュータ」が解き明かす。

多くの日本企業が直面する情報システムの老朽化問題、「2025年の崖」を乗り越えるヒントがここにある。

書評

まず最初に書いておくが、本書には多くの人が期待しているような内容について、書かれていない

おそらくこの本を手に取った人はみずほ銀行が19年かけたシステム統合において、現場がどれだけ混迷を極めていたかを知りたかったはずだ。定まらない要件、飛び交う怒号、倒れていく開発者、逐次投入される素人、、、こういった内容を期待しているのであれば、本書は期待外れである。

しかしSIerが読むと、「上からの無茶な要求にNOを言えなかったんだろう」「きっと怒号が飛び交っただろう」「この期間担当者は何時間寝られてないんだろう」等、想像できる箇所が多数ある。書かれていない分、逆に想像してしまい心が苦しくなる。

そんなわけでSIerの方は心に余裕のある時に読むことをお勧めする。

一方で、本当に読んでほしいのは経営層の方々である。特に初期のシステム統合計画については「ITに理解のない経営層が経営判断をせずに下に丸投げ」したために中々進まなかった事が書かれている。

簡単に内容を紹介する。

  • 第1部

第1部は新システム「MINORI」の紹介。

4000億円を投じたプロジェクトについて、要件定義の進め方、MINORIの機能などがみずほ銀行幹部へのインタビューと共に掲載されている。

ただ、勝てば官軍、成功した後だからなんとでもいえる、と考えてしまうのは自分の性格が悪いんだろうか。

例えば完全に刷新したはずなのに、勘定系システムはメインフレームCOBOLである。100歩譲ってメインフレームはいいとして、新規開発でCOBOLとはいったいどういう判断だろう。本当に知りたかったのはこのあたりだが、残念ながら本書では触れられていない。

そのほか、日本の金融システムの歴史について簡単にまとめられており、ここは勉強になった。

  • 第2部、第3部

第2部は2度目の障害、第3部は1度目の障害について。

第2部、第3部はおそらく過去の書籍と内容が重複していると思われる。しかし本書の読むべきところはここである。

まず1度目の障害に至るまでの道筋。 経営統合したはいいが、システム統合に関してはITに理解のない経営陣が下に丸投げ。大したシステム統合の方針がないために、各銀行の情報システム担当がそれぞれのSIと組み政治戦。当然のことながら一向に進まないが、システムのリリース日だけは決まっているという状況だった。結果は推して知るべし。

2度目の障害は2011年、東日本大震災での義援金振込が殺到し、システムが処理しきれない数の振込が来たというものだった。1度目の障害以降、旧システムを延命して使用していたのだが、老朽化しそのシステムの様々な制約を知る人がいなくなっていたために招いた事件だった。

障害が起きてからの対応も悪く、システムの長時間停止など思い切った判断をするまでに相当な時間がかかり、障害規模が広がってしまった。

ここでは経営層がどういった判断すべきだったか、どういった仕組みを持っておくべきだったかが掲載されている。

もちろん理想論も多いので、実際にその場になってできるかは別である。しかし、学べるところは多いだろう。